電車の中のとある風景 [コラム・小説・詩]
観劇を終えて電車に乗る.時刻は22時前.少しだけ混んでいる状態.私はいつものように運転席の右側で暗闇の中を走る電車の前面展望を楽しむ.
電車がK駅に着くとターミナル駅ということもあり,どっと人が乗ってくる.電車の優先席には若いサラリーマン.立っている人が多い中いい度胸である.電車がK駅を発車すると,サラリーマンの前に多分かなり飲んだと思われるいい感じに出来上がったおじいさんが立った.
さすがにサラリーマンも気付いたようで,「どうぞ」とおじいさんに席を譲ろうとする.しかしおじいさんは完全に出来上がっているにも関わらず,
「やさしいなぁ,でもわし大丈夫やから.兄ちゃんいくつ,30歳か.若いのに偉いなぁ」
次の駅で席が空いたこともあり,おじいさんがサラリーマンの隣に座っていろいろと語り始める.サラリーマンも微妙に困った顔をしつつ,おじいさんに話を合わせる.エンジンがかかったおじいさん曰く,
「わし昭和元年生まれ」
「自衛隊に勤めとって金はいっぱいもらったし,年金もたくさんもろている」
「自衛隊で全国各地に行った.九州から北海道まで」
「三島由紀夫の割腹自殺の演説を聞いた」(!)などなど
私はあれっと思い思わず心の中で突っ込みを入れてしまう.
(昭和元年生まれということは84歳くらいだよなぁ,いや~,ちょっと待て!もっと若く見えるぞ.昭和元年生まれならギリギリで兵役に付いとると思うんやけど….三島由紀夫の事件を生で見たのかスゲー,あの事件があったのが昭和45年….ずいぶん長く自衛隊に残ってはったんやなぁ…)
おじいさんはそこからエンジンにターボがかかり,日本の防衛や政治や年金に関する愚痴があふれ出てくるわ出てくるわ.そこで目的駅に着いたので私は電車を降りた.おじいさんとサラリーマンの目的駅はまだ先のようだ.おじいさんの話は終わらない.サラリーマンも本当に困ったなぁ,という表情で話を合わせ続けていた.
ごくごくありがちな平日の電車の中の出来事.
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