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夢の終わり [コラム・小説・詩]

気が付くと私は2000人は入ろうかという大劇場のド真中に立っていた.何があったのかよく思いだせない.多分ステージ上の私を照らすためにつけられたであろうスポットライトがやたらに眩しい.頭がボンヤリするのはそのライトが発する熱によるものなのだろうか.

今じゃリーマンやってるけど,役者やミュージシャンに憧れていたもんだから,この場所にいることは全然苦痛ではないのだ.むしろライトを浴びるというのはある種の快楽をもたらすものであって,そのおかげだろうか,疲れているんだけど気持ちがいいような気がするよ.

まわりに何があるか見てみようか.舞台の上手側には3000円ポッキリで買ったフォークギター,大学時代に使った家具屋の5階に在ったスタジオで叩いていたドラム,何故か両手には6本のスティックが,ハードロック用の太いのが4本,ポップスやジャズ用の細いの2本.ご丁寧に目の前にマイクスタンド.しっかりとピックがいっぱい付いてるの.これは私に歌えということなのか?

下手側にはテーブルが置いてあってそこにはうずたかく積まれた台本の数々.その横にやっぱりいた人形劇の人形たち.これはきっと夢なんだろうなぁ.そう思うのもよく分からんのだけど,何故だか答えに納得をしてしまう.でも聞こえてこないかい,2000人の声が,拍手が,歓声が!

逆光に中よく眼を凝らして見ると本当に観客席は超満員.だけどだからといってこのステージ上で何をしていいんだい.こんな中途半端な私の切ない一人芝居を観たいのかい?うるさいだけのドラムが聴きたいのかい?子ども騙しの人形劇でお茶を濁して欲しいのかい?鬱が移るような私の歌が聴きたいのかい?

何をしていいのか分からない…このままじゃダメになってしまう.何とかしなきゃ.

…そう思ったとたん,スポットライトの明かりが消えた.私は明日会社で発表しなくてはならないプレゼンテーションの資料を暗く,それを作っているパソコンのディスプレイだけが妙に明るい自分の部屋に戻っていた.もうそんな日はきっと来ないのだろう.分かっているはずなのに….

……
資料作りに戻ろう.
夢の続きはきっと…無い.


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