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「思い込み」という名の罠 [e-AT・AAC(コラム)]

最近AAC・コミュニケーションエイド系の業務から離れていますが,思うところがあったので取り上げます.

 「23年間昏睡」の男性:「コンピューターによる会話」は本当か? (WIRED VISION)

先に書いておきますが,今回紹介しているWIRED VISIONの元記事,少しミスリードを誘うというか,論点が絞れていないというか,少しぼやけてしまっている内容なのでまとめます.2つの論点を行ったり来たりしているんですよね,この元記事.結論をまとめてしまうと,

  • 意識レベルが低くコミュニケーションが困難であると思われる人の約40%が,実際の状態よりより重篤な状態と誤診されている可能性があることが,近年の脳スキャン技術で明らかになった.
  • Houben氏が用いているファシリテイテッド・コミュニケーションの技法(FC)は多くの研究者から疑問視されている.

この2つになるかと思います.どちらも重要なことでWIRED VISIONが伝えたいであろうことは多分前者なんでしょうね,多分.間にFCを挟んでいるので分かりにくいですけども.今回この記事で取り上げるのは後者の方です.

記事中にあるBBCの動画を見ました.思い出したのは7年ほど前にNHKが紹介した事例です.当時かなり一方向に偏った放送で,なぜNHKで放映したのかかなり理解に苦しみました.今回のBBCの動画はNHKのときほどではないもののやはり解せないですね.確かに本人が指を使って文字盤をなぞって文章を綴る動画はセンセーショナルではありますが…

通常日本だとHouben氏のようなケースの場合「重度障害者用意思伝達装置」という機器を使ってコミュニケーションを図ることになります.詳細はWikipediaもしくは日本リハビリテーション工学協会が作成した「『重度障害者用意思伝達装置』導入ガイドライン」をご参照ください.

これらのことを踏まえた上で,FCだけでなくAAC・コミュニケーションエイドに関わっていると陥りやすい問題点を紹介します.それは,

 周りの人間が「思い込み」でコミュニケーションを図った気になってしまう

ということです.

Houben氏の動画に登場する隣でタッチパネルの指差しを手伝っている女性.多分動画を見た方の多くは「Houben氏ではなく女性が文章を作っているのではないか」と感じたのではないでしょうか.残念ながらほぼその回答で正解です.無意識のうちに女性が「Houben氏がこのように文章を作って欲しい」という願いの元,文章を作るのを手伝っているためあのような「極端な」動きとなって表出してしまっているのです.

一応補足….コミュニケーションをとる上であのように指差しを手伝うことをしてはいけないのか,ということですが方法としてなくはありません.ただしそれはあくまで本人の意思で動いている指の動きを「サポートする」ということですが….

あの女性のような極端な例ではないにしろコミュニケーションをする際に「思い込み」によって発生しがちな例を2つ紹介しましょう.

ケース1:先読み
文章を作成するタイプのコミュニケーション機器を用いるときに陥りやすい「思い込み」.本人は「がっこうにいきたくない」と文章をつづりたい.ところが周りにいる人たちの中に「この人は学校に行きたいんだ」という「思い込み」があると「がっこうにいき」まで文章をつづったところで「あ,学校にいきたいんですね,じゃあ一緒に行きましょう」と誤って先読みしてしまうケース.
コミュニケーション手法によってはかなり時間を取ってしまうこともあり発生する可能性が高いですし,1文字をつづるのが大変な人の場合周りの人が「気を使う」ことで先読みが発生してしまうこともあります.特に日本語だと文章の最後の部分で意味が全く変わってしまうことが多いので注意が必要な「思い込み」です.

ケース2:本人の思い
重度重複障害のある女の子が初めてVOCA(録音した音声を再生するタイプのコミュニケーションエイド:)を使ったときのこと.女の子のご両親は「女の子だからこんなメッセージを入れておいたらよいだろう」と「思い込んで」しまいかわいらしいメッセージを入れてみたがどうも使ってもらえない.男の子がするようなアクティブなメッセージを入れると喜んでVOCAを使うようになりました.
お子さんがコミュニケーション機器を使うときに陥りやすい「思い込み」です.特にご両親やご家族の場合「この子にはこのようなことをして欲しい」ということを無意識のうちに考えている場合が多く,最初のステップでつまづいてしまい導入が難しいケースもあります.導入後に本人が言いたかったこととご両親やご家族が言って欲しかったことにギャップが生じてしまうこともごく稀にあります.

この2つのケース,どちらも「優しさ」や「気配り」から発生してしまう「思い込み」なんですよね.むしろ「思い込み」ではなく「おもいやり」と言った方が適切かもしれないですよね.なので本当の意味で「思い込み」を排除してしまうのは実は思っている以上に難しいことではあります.そんな場合は単純なことですが,

 「待つ」ことを心掛ける

たったこれだけのことではありますが,「思い込み」による失敗を防ぐためには非常に有用な方法です.とにかく「待つ」気持ちを忘れずに.

思ったことを書き連ねてみました.たまにはこんな記事もあるということで….では,今日はここまで!


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