障害全般とAT/AACその1 [e-AT・AAC(試験対策)]
今回は「障害とは何か」「ADLとQOL」という基本的なことをまとめる.
- 障害とは
- 病気・ケガとの違い
- 障害は固定したもの
一般的に病気・ケガは快方に向かったり悪化したり状況が変化するが,障害は固定したものと考えられている. - 固定している障害の変化
障害もリハビリテーションにより改善されたり,放置して悪化することがある.また別の部位に二次障害を生じることがある.
- 障害は固定したもの
- 従来の障害分類:ICIDH
WHOは1980年に国際障害分類(ICIDH)を定めた.これは,障害を3つのレベルに分け,機能形態障害(Impairment),能力障害(Disability),社会的不利(Handicap)と定義したものである.
- 3つのレベルは関連しており,身体機能に機能形態障害(Impairment)を生じ,それまでできていたことができなくなり(Disabillity),職を失う等の社会的不利(Handicap)が生じるという,連続したモデルとなっている.
- ICIDHの問題点として,障害の過程における社会的・物理的な役割を十分に反映していないことが上げられる.
- 新しい障害分類:ICF
WHOは2001年に分類方法を改定しICFを定めた.
- ICIDHでは障害をさまざまな場面での「できない」面を強調したものであるのに対し,ICFでは障害をマイナスととらえない(マイナスにとらえない)ものであることを強調している.
ICFでは「心身機能と構造(body function and structure)」「個人レベルの活動(activity)」「社会への参加(participation)」とできることを強調しており,それにたいする制限を障害として考えている. - 障害は誰でも持ちうるものと考える.
老齢化により誰でも障害を持つもとになるし,英語がしゃべれないと海外に行ったときにコミュニケーション面での障害を発生することもある. - 障害を相互作用モデルとして考える.健康因子と背景因子(環境因子と個人因子)との間の相互作用やさらに複雑な関係であると考える.同じ障害を持っていても,個人因子や環境因子により状態は変わってくる.
- ICIDHでは障害をさまざまな場面での「できない」面を強調したものであるのに対し,ICFでは障害をマイナスととらえない(マイナスにとらえない)ものであることを強調している.
- 日本の現状
- 人数
- 18歳以上の身体障害者数(在宅)は3,245,000人,18歳未満の身体障害児数(在宅)は81,900人と推計されている(平成13年調査).
- 知的障害児・者数は455,000人(18歳以上338,900人,18歳未満102,200人,不詳14,400人)と推計されている(平成12年調査).
- 種類と程度
- 身体障害
身体障害の種類は「肢体不自由」「内部障害」「聴覚・言語障害」「視覚障害」に分けられ,身体障害者福祉法に基づき障害の程度により1級~7級まで等級が分けられている.なお,専門医の判定を受けることで身体障害者手帳が交付される. - 肢体不自由
下肢もしくは上肢または体幹に障害がある. - 内部障害
心臓機能障害,腎機能障害,呼吸器機能障害,膀胱または直腸の機能障害,小腸機能障害をさす. - 聴覚・言語障害
聴覚障害は全く聞こえないか,難聴などにより音声による情報入手が困難な状態をさし,言語障害を併せもつ場合がある. - 視覚障害
視覚障害は全く見えない(全盲)かまたは視覚による情報の入手が困難な状態(弱視)をさす. - 知的障害
知的障害は,知的な発達が広汎に遅れている状態をさす.知能指数(IQ)と生活能力水準により,「軽度」「中度」「重度」「最重度」に分類される.なお,専門医の判定を受けると療育手帳が交付される.同じ発達障害でも学習障害(LD)や自閉症は知的障害とは区別される. - その他の障害
知的障害は発達的な遅れと法律ではとらえられているため,後天的に知的障害をもった場合,療育手帳の対象にはならない(法的には知的障害ではない).脳血管障害や交通事故にの後遺症として認知障害や記憶障害が残った場合,障害認定は受けることができない.
- 人数
- 障害のある方の生活
- 大きく「家族と暮らす人(家族やヘルパーに介助を受けながら生活)」「施設で暮らす人(家での生活が困難な人の場合福祉施設で生活)」「地域で暮らす人(必要最小限の支援を受けながら自立生活する人)」に分けられる.
- 仕事
- 障害のある人は就労が困難な場合が多いため.就労促進の目的で日本障害者雇用促進協会が職業リハビリテーションの事業を行なっている.
- 障害者職業センターは,障害リハビリテーションサービスを実施する施設であり,全国に55箇所ある.
- 「障害者の雇用の促進等に関する法律」により56人以上の一般事業主は,「常用雇用労働者数」の1.8%以上が身体障害者または知的障害者を雇用しなくてはならないとされている.
- 一般就労が困難な人は,福祉就労と呼ばれる形で「福祉工場」「授産施設」「小規模作業所」などで就労している.
- 病気・ケガとの違い
- 障害受容
- 障害受容について
- 障害受容は「あきらめ」「いなおり」などのネガティブな状態ではなく,障害があることをポジティブに考えることができる状態のことである.
- 障害受容は本人だけではなく,家族もその障害を受容する必要がある.
- 先天性の障害がある人と後天的に障害を持った人の場合,障害受容にいたるプロセスが異なる.
- 障害受容までのプロセス
支援機器の導入までには現在本人・家族がどのプロセスにあるか把握しておく必要がある.- ショック期
自分に何が起こったかを理解できていない状態.この期間はさほど長く続かず,少しずつ現実が見えてくる. - 否認期
自分の障害を認められない状態.ショックを和らげる意味で最も重要な時期であるが,この期間が長く続いた場合,リハビリテーションに影響がでることがある. - 混乱期
「怒り」「悲しみ」「抑うつ」などが現れる状態.よく介護者とトラブルが生じるのがこの時期である.これらの感情はやり場のない感情の表出と理解する必要がある. - 努力期
さまざまなきっかけで,いままでとは違った生き方が見えてくる時期. - 障害受容
自分の障害を前向きに建設的に捉えられるようになった状態.
- ショック期
- ATと障害受容
- AT機器の拒否
- 障害を持った人の多くは障害の克服を望んでいるため,AT機器の導入には慎重に行なわなくてならない.
- AT機器の紹介により,機能回復の見込みがなくなったと悲観し,機器導入を拒否する場合がある.
- 特にショック期・否認期・混乱期に機器導入を行なう場合には十分は配慮が必要.
- 機器の導入にあたっては,AT機器のすべてが否定される訳ではなく,リモコンなど日常で使用するものであれば受容されやすい場合がある.
- AT機器による障害受容
AT機器によってできることに気付くことで,障害受容を促進する場合もある. - 障害への多様なアプローチの必要性
ATは解決方法のひとつであり,その他にも医学や工学,心理学,看護学,社会福祉学,教育学などさまざまは視点から考え,時期に応じた支援を行なう必要がある.
- AT機器の拒否
- 「自立」の考え方の変化とコミュニケーションニーズの高まり
- ADLからQOLへのシフト
- 1970年代まではADL(Activities of Daily Living:日常生活動作)の回復・獲得がリハビリテーションの主たる目標であり,回復が困難な場合は手厚く介助するという考え方が一般的であった.
- 1980年代にアメリカで運動障害のある人の自立生活運動により障害者への観方が変わった.
- ADLや経済的自立が目標だった自立観が,QOL(Quality Of Life:生活の質)にシフトした.
- ADL(Activities of Daily Living:日常生活動作)
障害によりできなくなった食事・排泄・衣類の着脱など,日常の生活に必要な動作のことであり,理学療法や作業療法がADLの獲得に大きな役割を果たしている. - QOL(Quality Of Life:生活の質)
質の高い介護を受けても,障害のある人本人の意志を反映したものでなければQOLの向上には結びつかない.このことによりADLのみでなく障害のある人の自己決定がQOLを考える上で重要となった.自己決定の重要性からAACという分野が確立した.
AACに関するblog内のリンク
AT/AAC関連の用語説明
言語障害のある方へのAT/AACその1
言語障害のある方へのAT/AACその2
- ADLからQOLへのシフト
- 障害受容について
次回も引き続き障害全般とAT/AACに関してまとめる.その次に制度の紹介とサポート方法をまとめていく予定である.
参考文献・サイト
- 福祉情報技術 II 生活を支援する技術編
e-AT利用促進協会 監修 - 福祉情報技術 I 障害とテクノロジー編
e-AT利用促進協会 監修 - 福祉情報技術コーディネーター認定試験
e-AT利用促進協会 監修 - アダプティブテクノロジー ~コンピュータによる障害者支援技術~
ジョゼフ・ラザーロ 著/安村通晃 監訳/島原信一・中村美代子・石田直子 訳 - こころWeb
こころリソースブック編集会
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